「ここから出ましょう」


姉さんは少しだけ目尻を下げて、困ったように笑った。姉さんの肢体には絢爛豪華な宝石が幾つも彼女を彩っていた。例えるなら姉さんの瞳のように蒼いネックレスが幾重にも彼女の首に巻き付き、両の腕には彼女の髪色を模したブレスレットが付けられていた。そして両足にはただ下品に光るだけの金色のアンクレット。彼女を囲う部屋には名前の知れた宝石が幾つも散りばめられ、その中心に、姉さんは何よりも鮮やかに輝いているのだ。彼女を彩るはずの綺麗な宝石類は彼女の前ではただの 石にしか過ぎなかった。姉さんは丁寧にも彼から貰うものは全てどんなものでも自分の体に身につけていった。自ら、だ。強制されるでもなくどんなものでも彼女は1つずつ順番に宝石を身に付けその身を鎖に繋いだ。
一度身につけてしまえば、もう外れないと彼女は知っていたはずなのに!!


「逃げましょう姉さん」
「俺はここから出られないよ」
「いいえ、僕が姉さんを助けます」
「ヒュー、」
「姉さんはここから出られます、絶対に」
「ううん、俺はここから出られないよ」
「僕を信じてくれないんですか!」



貴方が首を縦にふってさえくれれば僕はどんな卑怯な手を使ってでも貴方をここから連れ出してみせるのに。彼女は小さく首を横に振る。どうして。何故。理由はとうに分かっている。分かっているんだ。それでも。それでも姉さんは僕を選んでくれると思っていた。でもそれは僕の希望でしかなかったらしい。
彼女が選んだのは僕でも、ましてや外の世界でも無かった。彼女はあいつと、この狭い悪趣味な空間を選んだのだ。ただそれだけのことなのだ。彼女が僕の手をとって、優しく両の手で撫でた。なんて、暖かい。だけれどそれは、拒絶と同意義だった。




「俺は、ユーリさんと一緒にいたい」




じゃらり、彼女の身につけている宝石たちが一斉に音を立てて鳴った。まるで今この場にいないあの男が笑っているかのようで。姉さんのこの手を掴んだのは僕ではないと、言われているようだった。ざまあまろ。結局僕は、負けたのだ。
















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宝石提供者:エステル嬢



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